産業用ロボットの事故や故障を防ぐ。定期的なメンテナンスの必要性を解説

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近年、産業用ロボットの性能は大幅に向上し、故障する確率も大きく下がりました。しかし、産業用ロボットも機械である以上、絶対に故障しないわけではありません。大切に扱っていても、機械には、経年劣化による動作不良や不慮の故障はつきものです。

産業用ロボットも機械のひとつ。長く安全に活用するためには、定期的なメンテナンスが必要になります。今回は、産業用ロボットをメンテナンスする必要性についてご紹介します。

産業用ロボットの故障例と原因

産業用ロボットは、ハードの進化による複雑な動作とプログラムによる繊細な制御が可能になったことで、普及が進んでいます。しかし、以前よりも構造が複雑になり、様々な要素で構成されているため、故障の原因と症状は様々です。

では、産業用ロボットにおける故障とは、具体的にどんなものがあるのでしょうか。いくつかの例をご紹介します。

サーボエラー

サーボとは制御装置のことです。一般的に、同じ動作を高速で繰り返すような産業用ロボットに用いられています。このサーボにエラーが発生すると、指示した位置からズレたり運動速度が緩慢したりします。サーボエラーが発生する原因は、モーターにかかる負荷の大きさです。

スマートフォンに例えると、複数のアプリを立ち上げた状態を継続すると端末が放熱し、動作が遅くなるときがあります。これは、メモリの処理能力がアプリの負荷に耐えられず、性能が低下することで発生しています。

断線による故障

産業用ロボットには指示を伝達するケーブルが使われています。特殊な樹脂を使ったシールドに包まれ、内部の銅線はしっかりと守られているため、めったに切断されることはありません。しかし、強い衝撃を与えたときや、電圧の関係で強い負荷が生じた場合、断線する可能性もあります。

このケーブルが断線してしまうと、銅線内部で破損が起こり、正しい指示命令が行われず、正しく動作しなくなってしまいます。ロボットの動作が不安定な状態だと予測不能な動作が行われ、事故につながる可能性があるため、非常に危険です。

マニピュレータの故障

マニピュレータとは、産業用ロボットのアーム部分のこと。この部分は、摩耗による経年劣化が生じます。開閉運動を行うほとんどのアームには、グリス(液状潤滑剤)が使われスムーズな動作を行います。しかし、グリスが乾燥や高温によって劣化すると、部品同士の摩耗や破損が起こり故障の原因となります。マニピュレータは製品を掴んだり離したりする動作を行うため、故障すると作業の精度が落ち、製品に傷をつけてしまうこともあります。

メンテナンスは「必ず」実施する必要がある

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こうした故障を防ぐために、メンテナンスは重要視されており、法律でもメンテナンスの実施が制定されています。

労働安全衛生法第28条第1項

厚生労働省は労働安全衛生法第28条第1項にて、危険防止の措置、作業行動から生ずる労働災害の防止の措置を講じるよう定めています。事業者が産業用ロボットを運用するうえで、メンテナンスの必要性が記載されている法律です。

私たちが日常的に使用している自動車でさえ、故障なく安全に使用するためには、運転前の点検や車検を実施することがルールとされています。また、一般家庭で使われる自家用車は運転前点検や法定点検が必要ですが、ほとんどの人が実施することなく乗用していることも事実です。

しかし、事業用で使われている車両(タクシー、バス、トラックなど)は、始業前点検や法定点検をきちんと行っています。走行距離も長いため、安全で快適な運転を続けるためにも、走行前の入念なチェックが重要になるのです。

産業用ロボットも同様です。毎日長時間稼動するため、始業前や始業後の点検や法定点検を毎日実施する必要があります。

ある自動車のライン工場では、作業員の2交代や3交代勤務体制を採用しています。その工場で稼働している産業用ロボットは、労働者の交代のたびに改めて点検が行われているそうです。それによって破損や劣化を未然に防ぎ、問題が発生する前に部品を交換するなどの体制が整っています。その結果、産業用ロボットの長時間稼働が可能となっているのです。

産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針5 定期検査等

上記は労働安全衛生法にもとづき、産業用ロボットを利用する際の安全基準について定めた法律です。作業を開始する前に点検することや、定期的な検査によって異常がないかを確認することが記載されています。ロボットを使用する事業者にとって安全基準を満たすことは、作業員の命を守ることと同じであり、さらに事故発生による損失の回避にもつながるのです。

メンテナンス内容は多岐にわたる

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産業用ロボットのメンテナンスは大きくふたつに分けられます。1つ目は、毎日必ず実施するもの。2つ目は、週や月毎に実施するものです。産業用ロボットの型によって点検方法は異なりますが、一般的な点検項目についてご紹介します。

日常的なメンテナンス

日常的なメンテナンスは、作業員が作業を開始するときに、安全に使用できるかどうかを確認するものです。例えば、ロボットのカバーやボルトに緩みがないかを確認したり、モーターや空圧系装置の電源を入れた後に異常(音や煙)が見られないかを確認したりします。また、動作ポイントの位置ズレの点検も日常的なメンテナンスの範囲です。

【メンテナンス範囲】

  • 制御装置が正しく機能し問題は見られないか
  • 非常停止装置は正しく機能できているか
  • アームやハンド部分のすべてのボルトに緩みはないか
  • 電源を入れたあとに異常音や異常振動は見られないか
  • 冷却ファンの回転が正常に動作しているか
  • グリス(液状潤滑剤)は漏れていないか
など

1項目でも異常が確認できれば、すぐに補修を行う必要があります。ロボット事故よる被害は大きくなりやすいため、小さな異常でも決して無視することはできません。日々の点検は手間がかかるかもしれませんが、こうした点検が産業用ロボットの劣化を遅らせ、効果を最大化させるのです。

週・月単位でのメンテナンス

日常的なメンテナンスのほかに、定められた期間中はロボットを完全に停止し、機器の検査を行う点検もあります。

この点検では、ロボット本体、制御にかかわる周辺機器、そしてアームの3つを重点的にメンテナンスします。ロボット本体や周辺機器は、ロボットメーカーや専門知識をもったSIer(システムインテグレータ)に依頼するのが一般的です。ロボットの状態によっては、オーバーホール(部品レベルまでの分解)をして清掃や劣化の確認まで行います。

【メンテナンス範囲】

  • ロボット本体の精密部品の交換
  • 電気回路に劣化がないかの点検
  • ロボット内部の清掃
  • 内部バッテリーの消耗具合の確認
など

現場の作業員は、ロボットが問題なく稼働するかどうかを日々の点検で行いますが、本体や電気回路の点検には専門知識が必要です。そのため、専門業者がこうした部分の点検を定期的に行います。産業用ロボットを使用する事業者は、ロボットメーカーと保守体制や保証期間についてもきちんと取り決めておくことが大切です。

メンテナンスの必要性について

日々のメンテナンスも定期的なメンテナンスも、産業用ロボットを安全に運用するために欠かせない業務です。

産業用ロボットの業務にかかわる作業員は、メンテナンスの重要性をはじめ、ロボットの運用方法について正しい知識を養うために、特別教育を受けることが義務付けられています。また、産業用ロボットを使用する事業者は、作業員に特別教育を実施するだけでなく、ロボットの運用ルール策定など、事故を未然に防ぐ施策が必要です。

メンテナンスを正しく行えば、産業用ロボットは長い期間稼働し、工場に利益をもたらしてくれます。事故リスクを最小限に抑え、産業用ロボットの効果を最大化させるために、メンテナンスを怠らないようしましょう。

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