会社が遵守すべき「労働安全衛生法」とは?わかりやすく説明

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製造現場で働いている作業員は、常に危険と隣り合わせです。大型機械の作業員は、一瞬の気の緩みによるミスで命を落としてしまったり、長時間の立ち作業によって腰を痛めてしまったりする可能性もあります。こうしたリスクから労働者を守るために、企業だけでなく、公的機関も労働環境の改善を行ってきました。

労働者を守る仕組みのひとつが「労働安全衛生法」です。この法律には、会社による健全な作業環境の提供と労働者を守ることが定められており、働いている全員が必ず遵守しなければなりません。

現在の製造業界では、産業用ロボットの普及にともなって、ロボットにかかわる事故件数が増加しています。これからも産業用ロボットの普及は進んでいくと考えられているため、事業者は労働安全衛生法を改めて確認し、正しく理解しておく必要があります。

今回は、労働安全衛生法についてわかりやすく解説します。

労働安全衛生法が設立された背景

現在、労働安全衛生法は必ず守らなければいけない法律として認知されていますが、この法律が施行されてからまだ40年ほどしか経っていません。まずは、労働安全衛生法が設立された背景をご紹介します。

日本の産業は昭和35年頃に高度経済成長期を迎えました。製造業界は生産力を高めるために、現場作業員にとって扱いが不慣れな機械が導入されたり、労働集約型の働き方が採用されたりするなど、労働環境が大きく変化。昭和40年頃には、労働災害による死亡者が毎年6,000人を超えるようになり、過酷な労働環境が社会問題になっていたのです。

当時は、労働者が安全で快適に働ける環境かどうかを判別する明確なガイドラインが存在していませんでした。そこで、「職場における労働者の安全と健康を確保」と「快適な職場環境を形成する」という目的において、昭和47年(1972年)に労働安全衛生法が制定されました。実際に、この法律が施行されてから10年ほどで事故件数は半分以下まで減少したのです。

参考:労働安全衛生法の30年と今後の課題 - 日本労働安全衛生コンサルタント会

労働安全衛生「法」と労働安全衛生「規則」の違い

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「労働安全衛生法」と「労働安全規則」の違いは、定める機関と法的拘束力の強さです。法律は国会が定めており、「絶対に遵守する義務」として強い拘束力があります。規則は行政省庁が制定機関であり、「ルールに則った行動の指針」です。しかし法的拘束力の強弱にかかわらず、規則も必ず守らなければならないルールであることを正しく理解しましょう。

労働安全衛生規則は、厚生労働省が労働の安全衛生についての基準を定めた省令です。労働安全衛生法で大まかな原則を定め、より具体的な事項を労働安全衛生規則でルールや行動の指針を定めています。

産業用ロボットを導入する際は、『安全柵を設置しなければならない』『事業者はロボット作業にかかわる作業者全員に安全教育を受講させなければならない』といった規則が定められています。

事業者が遵守すべき内容

労働安全衛生法では、責任の対象は次の4つに分けられており、それぞれに責務が規定されています。

  1. 元方事業者:請負人に仕事を任せている人
  2. 発注者:作業を注文した人
  3. 事業者:事業を行う人
  4. 労働者:事業者に使用される人

労働安全衛生法における事業者は、『事業を行う者で、労働者を使用するもの』と定義されています。個人企業の場合、事業者は経営者本人を指しますが、法人企業では、経営者ではなく法人を指すことがポイントです。

次は、工場の責任者や社長などの『事業者』が問われる責務について解説します。

危険防止のために必要な措置

事業者が行うべき措置 対象となる危険等又は措置の内容
危険防止の措置 ・機械、器具その他の設備による危険
・爆発物、発火性の物などによる危険
・電気、熱その他のエネルギーによる危険
・掘削や砕石の作業方法から生ずる危険
・墜落や土砂等の崩落などのおそれのある場所の危険
健康障害の防止措置 ・原材料、ガスや蒸気などによる健康障害
・放射線、高温、騒音、振動等による健康障害
・軽気監視、精密工作等の作業による健康障害
・排気、廃液又は残さい物による健康障害
危険が急迫した際の措置 ・作業の中止や退避などの措置

事業者は、労働者の安全な労働環境を確保し、労働災害の発生を未然に防ぐための措置を講じなければなりません。この措置は「危険防止措置」「健康障害防止措置」「急迫した危険の防止措置」の3つに分けられます。

上記の図に記載されている内容の危険防止措置が講じられていない場合、事業者には罰則が科せられます。事業者は現場ではたらく作業員の命を守るために、こうした措置を決して怠ってはいけません。

現場ではたらく労働者は、事業者が行う措置について、必要な事項を守る責務があります。事業者が措置を講じているにもかかわらず、労働者の規則違反による負傷が発生した場合、労働者自身が責任を問われる可能性もあります。

安全衛生教育や就業にあたって必要な措置

種別 安衛法根拠条文 名称
義務 第59条第1項 雇い入れ時の教育
第59条第2項 作業内容変更時の教育
第59条第3項 危険有害業務従事者への特別教育
第60条 職長等教育
努力義務 第19条の2 労働災害防止のための業務に従事する者への能力向上教育
第60条の2 危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育

また、事業者は雇用時や作業内容の変更時、危険業務に携わる労働者や職長に就く際には、安全衛生教育を行う義務があります。

特に危険有害業務に労働者が携わる場合は、資格取得や法令で定められた特別教育を実施するよう義務付けられています。産業用ロボットの教示や調整は危険有害業務に指定されているため、産業用ロボットにかかわる業務に携わる作業員には、特別教育を必ず受講させなければなりません。

特別教育については、以下の記事で詳しく解説しています。
産業用ロボットの作業には資格が必須。特別教育の講座内容も解説

労働者の健康保持や増進の措置

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参考:【4】心身の健康 ―(社)安全衛生マネジメント協会

労働衛生3管理は、労働衛生管理の基本です。『労働者の健康保持や増進の措置』についても定めています。事業者は、労働者の健康を守るために、以下の管理を行わなければなりません。

  • 作業環境管理:作業中のリスクを把握し、管理すること
  • 作業管理:作業の安全化や効率化が可能な方法を定め、その方法が適切に実施されるか管理・改善すること
  • 健康管理:労働者の健康状態を管理し、異常を早期発見したり、回復措置を行ったりすること

事業者はこうした項目の管理を行い、作業の改善や労働者の健康を保持する義務があります。産業用ロボットを使用する事業者は、ロボットが生産性や作業員にどのような影響を与えているのか把握するため、それぞれの管理を徹底し、より高い効果を得るためにデータを活用しましょう。

労働安全衛生法の管理を徹底すると得られるメリット

労働安全衛生法の管理を徹底すると、事業者には多くのメリットがあります。従業員に快適な労働環境を提供できれば、製造現場で課題とされている人手不足の解消にもつながるでしょう。

最後に、労働安全衛生管理を徹底することで得られるメリットをご紹介します。

労働者のモチベーション向上

安全衛生管理の徹底とは、現場の作業環境を常に改善する努力を続けることです。事業者が現場の意見を取り入れながら積極的に活動することで、社内で良好なコミュニケーションが生まれて職場が明るくなり、労働者の働きやすさ向上につながります。

また、コミュニケーションを通して業務を行う意義や会社のビジョンを伝えることもでき、労働者が積極的に業務に取り組めるようになります。

生産性向上

それぞれの作業で最も効果的な方法を設定して教育を行うことで作業のムダがなくなり、生産性向上が見込めます。また、安全管理を徹底していれば、現場での事故やトラブルを未然に防ぐことが可能です。安全管理体制を構築することで、労働者も監督者も安心して業務に専念できる環境が整えられます。

コストを削減・抑制

作業管理や教育を徹底するためには、これまで生じていたムダなコストの洗い出しと削減は必須作業です。作業者の教育に力を入れれば、オペレーティングミスを減らすことができます。たとえば、部材や薬品といった消耗品の取扱いミスによるロスの抑制や、機材の操作ミスによって負傷した際の人的な損失も防げます。

労働安全衛生活動の徹底は働く人全員の義務

労働安全衛生法の遵守は、事業者だけでなく、労働者にとっても義務です。しかし労働安全衛生法について理解している労働者はほとんどいないため、事業者が安全衛生活動を率先して行い、労働者へ積極的に周知していくことで、現場に浸透します。労働安全衛生法の重要性が会社全体に浸透してはじめて、生産性向上などの効果が見込めるでしょう。

現在、作業効率の向上や労働環境を改善するための方法として、産業用ロボットの導入が注目を集めています。産業用ロボットは小型化や低価格化が進んでおり、行政も補助金制度を充実させているため、中小企業でも導入できるようになりました。安全衛生活動への取り組みとして、産業用ロボット導入を検討してみるのもよいかもしれません。

関連記事:ロボット導入は補助金を活用!知っておきたい受給対象事業と申請時のポイント

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