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エンジニアリングチェーンとは?製造業における課題や強化の方法を解説

エンジニアリングチェーンとは?製造業における課題や強化の方法を解説

製造業においては、設計〜製造の一連の流れを指すエンジニアリングチェーンが重要視されており、その強化は競争力のある商品や利益を生み出し続けるために欠かせません。本記事ではエンジニアリングチェーンにおける課題や、強化に向けたマネジメントについて解説します。

製造業では、競争力のある商品や利益を生み出し続ける仕組みがなければ生き残ることはできません。競争力を高める打ち手として、経営管理の強化や製造プロセスの最適化、販路の拡大などさまざまな施策が考えられますが、その先鋒を担うのは設計部門でしょう。経済産業省のものづくり白書によれば、製品の品質とコストの実に8割は設計で決まるとされています。

参考:第1部第1章第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進:2020年版ものづくり白書(METI/経済産業省)

そこで今回は、設計部門を中心とした一連の業務プロセスを指す「エンジニアリングチェーン」の重要性について、デジタル化との関係や強化・最適化に必要なアプローチを解説します。

エンジニアリングチェーンとは

エンジニアリングチェーンとは

エンジニアリングチェーンとは、製造プロセスにおける設計部門を中心とした業務の連鎖を指す言葉です。エンジニアリングチェーンに含める工程は企業によって若干の差があるものの、経済産業省においては研究開発、商品企画、製品設計、工程設計、製造の領域を「狭義のエンジニアリングチェーン」、さらに物流や販売/保守サービスを含めた領域を「広義のエンジニアリングチェーン」としています。

参考:経済産業省 製造産業局 製造業DXレポート〜エンジニアリングのニュー・ノーマル〜

消費者のニーズが多様化する昨今において、エンジニアリングチェーンは市場もしくは顧客に要求される製品の特性に応じて、最適な生産システムを設計・準備し、製造に移す工程であり、製造プロセスの中でも特に重要と考えられています。

前述した通り、製品の品質・コストの8割が設計で決まる点、設計工程を過ぎると設計変更の自由度が大きく低下する点、そして設計の段階で工数をかけることで、製造工程を含めた全体の工数を抑制できる(フロントローディング)点が主な理由です。

エンジニアリングチェーンにおける課題

従来の製造業においては、生産計画から調達、製造、物流、販売に至るまでのモノの流れを指すサプライチェーンの最適化によって生産性を高めるアプローチが一般的でした。そのような中でエンジニアリングチェーンが重要視され始めた理由は、近年のデジタル技術の発展が大きいでしょう。

製造工程の自動化が進んだことで、各業務プロセスにおけるデータを連携させ、生産性を高める取り組みが企業において進みました。たとえば、CADで設計したデータをそのまま工作機械・産業用ロボットのプログラミングに利用したり、生産情報をリアルタイムでデータ化し、全部門がクラウドソフトウェアで管理・流用する手法があげられます。

関連記事:CAD/CAM(キャドカム)で工作機械を制御する

しかしCADの普及によって設計技術はデジタル化されましたが、作図をはじめとした設計作業は依然として人の作業や感覚に依存しています。また、設計図面や構造計算書、仕様書はすべて図と文字で形成されており、人が読んで理解し、人が作業しないと業務が進みません。

このように設計から製造へのプロセスにおいては属人的な要素が強く残っており、製造コスト削減や品質改善においてはその最適化が極めて重要です。先んじて自動化が進んだ製造工程に対して、いかに商品・設備設計の段階を連携させるか、デジタル技術を導入するかといった課題から、設計〜製造のプロセスを細分化して検討するために生まれた考えがエンジニアリングチェーンです。

サプライチェーン・バリューチェーンとの違いと関係

エンジニアリングチェーンと深く関連する用語が「サプライチェーン」と「バリューチェーン」です。エンジニアリングチェーンの理解を深めるにあたって、これら関連する概念についても紹介しておきましょう。

サプライチェーン

サプライチェーンとは、企業活動における仕入れから生産、供給に至るまでの一連の流れを意味する言葉です。必要な原材料や機材をサプライヤーから調達し、自社内で生産を行い、流通業者を経てエンドユーザーに供給するまで全工程を水平的に網羅した概念だと言い換えられるでしょう。

このサプライチェーンに対して、設計部門を中心とした設計〜製造工程を切り出し、垂直的に細分化したものがエンジニアリングチェーンです。

サプライチェーンは企業活動の上流から下流におけるモノの流れに焦点を当てているものの、製造工程においてどのようなプロセスを経ているかといった各工程の詳細はさほど重要視していません。

一方でエンジニアリングチェーンでは、設計〜製造の詳細なプロセスに注目し、「作りやすくて売れる」製品をいかに効率的に生産するか、設計から製造の流れをどのように最適化するかに重きを置いています。

そしてエンジニアリングチェーンの強化がなされれば、流通や販売といった下流のサプライチェーンが最大限に機能し、売り上げや利益の最大化が見込めるといったように、最終的にはサプライチェーンにも大きなメリットをもたらす関係にあります。

バリューチェーン

バリューチェーンとは、事業活動を「マーケティング・開発設計・生産・供給・顧客フォロー」に分類し、仕入れから販売における各企業においてどれだけの付加価値を生み出しているかに着目した概念です。

一例として、メーカーは卸売業者への販売のみを行い、エンドユーザーへの販売は小売店のみが行っているBtoBtoCの形態を想像してみましょう。メーカーの利益に直結するのは卸売業者との取引ですが、実際には小売店がどれだけユーザーに商品を販売できるかどうかでメーカーの売上が増減します。

このような場合に重要となるのがバリューチェーンの視点で、小売店の販売促進のためにメーカーとして行うべき取り組みを見定め、実施することで、一連の流れにおける「価値」の最大化を目指します。

これらの他に、マーケティング・営業の過程に主眼を置いた「デマンドチェーン」や、顧客へのサービス提供に焦点を当てた「サービスチェーン」などの考え方がありますが、いずれも一連の企業活動を多角的な視点で分析する考え方です。

エンジニアリングチェーン強化の方法

製造業においてはロボットの導入を筆頭に業務の自動化が進んでいるがゆえ、製造工程の最適化で競争力を高めようとする考えに陥りがちです。

しかし、事前に設定されたルールやプログラムの範疇で動作するこれらの技術に依存することで、製造工程以降での設計変更がより難しくなる、あるいは手戻りの負担がかえって増加することも見込まれます。

したがってエンジニアリングチェーンの強化においては、特に商品設計・設備設計の見直しがポイントとなり、技術面と経営面の両面でアプローチを行う必要があります。

技術面:デジタル化のアプローチ

技術面におけるエンジニアリングチェーン強化のポイントは、デジタル技術による設計プロセスの効率化と、設計データを活用するシステムの導入による属人的な業務の削減にあります。以下、技術的なアプローチの代表例を紹介しましょう。

ジェネレーティブデザイン

ジェネレーティブデザインとは、達成したい設計条件や制約などの情報をシステムに入力することで、ゼロから最適な商品設計を生成する技術です。テキストや画像データを生み出す生成AIの技術を設計に応用したものだと考えるとわかりやすいでしょう。

システムが生み出した設計案をたたき台とする、あるいはいくつかの候補からより良いものを絞るといった形で、設計における人的作業を大幅に削減できることから、設計の高速化に大きなメリットをもたらし、時には人間では思い付かないような新しいアイデアが得られる場合もあります。

関連記事:ジェネレーティブデザインとは?人と機械が共同でデザインする技術

ラピッドプロトタイピング

ラピッドプロトタイピングは、3Dプリントをはじめとした3Dテクノロジーの開発により、迅速に製品の試作モデルを作成する開発技法です。従来のクレイモデル(粘土)や、モックアップ(木材)によるプロトタイプの作成は、熟練作業員による高度な技術が求めらますが、これらを3Dプリンターにより代替することで、製品の設計段階における検証と改善のサイクルを高速化し、開発時間の短縮とコストの削減を実現します。

関連記事:ラピッドプロトタイピングで製品開発を成功させるには

BOM(部品票)

BOMは製品を構成する全ての部品と材料のリストです。特に設計において用いられる部品表(E-BOM)は、部品構成をはじめとした設計情報の管理やコスト試算を効率化する役割があり、製造において用いられる部品表(M-BOM)は、それらの部品の調達や在庫管理、生産指示に必要な情報を一元管理する役割があります。

関連記事:部品表(BOM)は生産管理の要。目的で変わる種類や管理方法の違い

経営面のアプローチ:エンジニアリングチェーンマネジメント

設計プロセス内部での部門間のスムーズな情報共有や、正確な進捗管理を実施するための取り組みが「エンジニアリングチェーンマネジメント(ECM)」であり、経営目線からエンジニアリングチェーンを強化するための重要なアプローチです。

前述したデジタル化のアプローチによって、各工程間でのデータのやりとりや、システム上の連携がある程度取れるものの、設計工程はその複雑さから人的な作業をゼロにすることが極めて難しく、それゆえに部門間のコミュニケーションや情報共有が必須となります。

そのため、部門間の人的な連携を促すのがエンジニアリングチェーンマネジメントの基本的な考えですが、経営者と開発者、そして製造現場の管理者・作業者は知識や専門性が大きく異なるため、情報の伝達がうまくいかず、コミュニケーションが希薄になりがちです。

だからこそ、経営者がエンジニアリングチェーンの最適化という目標を掲げ、開発者や現場と共通のゴールに向かって情報交換を行う場を積極的に設けたうえで、課題の分析や解決のための投資判断を行う必要があります。

製造業のDXはエンジニアリングチェーンから

エンジニアリングチェーンは商品の設計から製造までの流れを意味する言葉ですが、製造業においては製造工程の自動化が進む一方で、設計工程がそれに追いついていない企業が多いのが実情です。コストや品質に対する影響度を加味すると、設計工程をいかに効率化するか、自動化された製造工程とどのように連携させるかをより重視して考えるべきでしょう。

しかしながらデジタル技術に頼りすぎてはいけません。開発スタッフと製造スタッフが積極的に交流し、情報交換ができる状況があって初めて、より大きなデジタル化の恩恵を受けることができます。DX(デジタルトランスフォーメーション)の考え方も同様に、デジタル化による「組織やサービスの変革」に主眼が置かれていることを忘れてはいけません。

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