ロボット普及と失業率は比例しない。業務整理と従業員教育が課題に

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ロボットは、労働力不足に悩む日本国内だけでなく、生産性向上を目的に世界中で活用が進んでいます。その理由は、生産技術が上がったことでハード面での性能上昇だけでなく、Internet of Things(IoT)やAIといった先端技術をソフト面と掛け合わせることで、活用領域が広がっているからです。

しかし新しいテクノロジーが生まれると、作業員の業務が新技術に代替され、職を失う懸念も生じています。

産業用ロボットを導入すると、現場で働く従業員の中には、「自分の仕事が取って代わられるのではないか」と不安を覚える人もいるかもしれません。しかし、産業用ロボットが普及することで、失業率は本当に上昇するのでしょうか。海外の最新データなどを参考にしながら、ロボット導入と失業リスクの関係について解説します。

低熟練職と中〜高熟練職で賃金や雇用に格差が生まれる

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国際ロボット連盟(IFR)が発表したレポート「ロボットが生産性と雇用に与える影響(impact of Robots on Productivity, Employment and Jobs)」によると、「産業用ロボットが普及するにつれて、雇用増加と賃金上昇が見込める」との見解を示しています。しかし同時に、「全ての人に当てはまるわけではない」という警告にも注意が必要です。

まずは、どのような理由からこの見解が導き出されているのか紐解いていきます。

参考:The Impact of Robots on Productivity, Employment and Jobs - IFR

ロボットを扱う職が増加。関連職の賃金は上昇

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参考:Global industrial robot sales doubled over the past five years - IFR

産業用ロボットの販売台数は、世界的に増加している状態です。その背景には、人件費の高騰だけでなく、ロボットの性能上昇と小型化による導入しやすさの向上があります。

かつての産業用ロボットは、自動車メーカーなどが大規模な生産工場を持ち、大掛かりな作業自動化をするケースで用いられてきました。しかし、ロボットの製造技術が向上し、小型化と作業領域の拡大によって、中小企業でも導入が可能になったため、業種や企業規模に関係なく活用されるようになったのです。

産業用ロボットの普及にともない、日常的な運用やメンテナンス、導入サポートといったロボット関連職の需要が増加します。調査内容によって結果は少々異なるものの、「ロボットの普及によって今後数十年で30,000以上の新しい職が生まれる*」「メカニカルエンジニア職の数は20%以上増え、簡単なメンテナンスや修理に携わる従業員は2倍ほど増える*」など、ロボット関連職の増加について見解は概ね一致しているようです。

ロボットを効果的に運用するために、SIer(システムインテグレータ)と呼ばれるエンジニアが必要不可欠となり、こうした職種に従事している人の雇用と賃金は上昇すると見込まれています。

また、現場の管理職や能力が高い作業員は、産業用ロボットの導入によって生産性が上がるため、賃金が企業の利益と比例して上昇する、と考えられているのです。

引用:※1 Barclays. 2015. Future-proofing UK manufacturing
引用:※2 PwC. 2014. The new hire: How a new generation of robots is transforming manufacturing

単純作業の担当者は職を失うリスクが高まる

一方、ロボットが得意とする単純作業に従事している作業員は職を失う可能性が高いとも示唆されています。

過去には、台湾に本社を置く電子機器製造の大手企業・フォックスコンで、産業用ロボットの導入にともなって1工場あたり6万人の従業員が解雇された事例も存在するほどです。飲食業や接客業では、ソフトバンク ロボティクス株式会社が提供している「Pepper」が受付を行う店舗も増えており、人による受付業務が不要になっています。

ロボットは産業用やサービス用問わず、活用領域が拡大しているのです。技術の進歩は早いため、現在は人の手が不可欠な作業でも、数年後にはロボットが代替できるようになる可能性もあります。

人の仕事がロボットに取って代わられる要因は、「ロボットの技術的進化」だけではありません。「人件費の高騰」も大きな要因です。たとえば、政策によって各企業に賃上げが要求されると、企業は売上と利益を上げるために、人件費を抑える方法を模索します。

ファストフード店を一例として挙げると、どんな従業員でも業務をこなせるように、作業やオペレーションをシンプルにしています。だからこそ、学生や外国人労働者がアルバイトやパートタイムで働けるのであり、こうした人たちにとって無くてはならない場所です。しかし従業員の賃上げを余儀なくされると、こうした簡単な作業をロボットに置き換えなければ、企業は利益を確保できなくなってしまうかもしれません。

こうした理由から、ロボット導入は中〜高熟練職の従業員に恩恵をもたらす一方、低熟練の従業員は職を失うリスクが高いと考えられているのです。

参考:Rise of the robots: 60,000 workers culled from just one factory as China’s struggling electronics hub turns to artificial intelligence
参考:Pepper for Biz(法人向けモデル)―ソフトバンクロボティクス
参考:ロボットと雇用と生産性と賃金~所得格差の拡大懸念 と生産性の改善期待の間で~

雇用を守るためには「職種の整理」や「従業員のスキルアップ」が必要

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では、利益を高めるためにロボットを導入し、生産性を追求することは、低熟練作業者の仕事を奪うことになるのでしょうか。

企業としては、ロボット導入による生産性向上と、従業員の雇用を両立できるのがベストでしょう。最後に、この理想を実現するために、企業が取り組んでいくべき課題「業務の整理」と「従業員のスキルアップ」について解説します。

業務整理や人材配置の最適化を行う

ロボット関連職の増加は、専門的な作業を行うロボットSIerに対してだけの提言ではありません。社内においても、ロボットの保守運用を行う仕事が増加します。ロボットの動作設定「ティーチング」をはじめとした専門的な作業は、ロボットSIerが担当することが多いものの、日常的な点検や作業は現場の従業員が行うことになるでしょう。「製品を作るための単純作業」がロボットに置き換わっても、「ロボットを運用するための単純作業」が同時に生まれるのです。

企業はロボット導入にともなう業務内容の変化に応じて、現場の業務や社内体制を改めて整備したり、人材配置を最適化したりすることで、作業を代替された低熟練作業員を解雇する必要がなくなります。

従業員のスキルアップに注力する

業務内容の変化にあわせて、従業員への教育も重要です。産業用ロボットの業務にかかわる教育は、特に徹底する必要があります。出力を低く抑えていることや高性能センサーによって安全性を確保した「協働ロボット」の普及や、安全対策を施す義務があるものの、ロボット業務に携わる作業員が命を落とす事故が後を絶ちません。

この事故の原因として、「特別教育の未実施」が挙げられます。特別教育は、ロボット業務に携わるすべての人が受けなければならない講習です。携わる業務によって教育内容も法律で規定されています。

低熟練者の雇用を守るためには、業務内容を変えるだけでなく、新しい業務を覚えるための外部講習会に参加させたり、まだ自動化が難しい中〜高熟練者に相当するスキルを習得するための社内研修を行ったりする取り組みが必要です。

関連記事:産業用ロボットの作業には資格が必須。特別教育の講座内容も解説

「ロボットは課題を改善してくれる」現場とのコミュニケーションが重要

ロボットの普及は、生産性向上による利益増加が見込めますが、従業員にとって「自分の仕事がなくならないか」といった不安の種になっているかもしれません。ロボットによって多くの人が職を失ってしまう事例も実際にありますが、本来、ロボットには、従業員にとっても「過酷労働からの開放」や「生産性向上による賃上げ」といった良い影響を及ぼす可能性に満ちています。

ロボットの導入で職を失う可能性がある従業員が心配な場合、業務整理や教育をしっかり行うことを発信し、現場からの理解を得る取り組みを行うのが効果的です。また、現在はロボットの小型化と協働化が進んでおり、工場全体を自動化せず、特定のライン作業にロボットを1台だけ導入することも可能です。自社の課題や目的に応じて、最適な導入方法を検討してみましょう。

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