生産性を高める。それはすべての製造業における永遠のテーマです。そして、製造工場には生産性向上のための課題が多く存在します。工場へのロボット導入による作業自動化は、そうした課題の解決策として注目を浴びています。
しかし製造業と言っても、工場によって取り扱う製品は多種多様。作業環境はそれぞれ異なり、抱えている課題も千差万別です。ロボットによる作業自動化は万能ではないため、全ての課題は解決できません。
では、ロボットはどのような課題を解決できるのでしょうか。そこで今回は、ロボットによる工場の自動化で解決できる課題をご紹介します。
課題1.品質チェック周辺のミスが多い
食品工場における材料の選別や製造工場の品質チェックは、人の手や目によって行われているところも多いでしょう。
人力でのチェックは作業効率に限界があります。常に大量のチェックを繰り返していく中で、人為的なミスは避けられません。
たとえば食品工場では、天然の果物や海産物を大量に選定します。しかしこれらは、形や大きさ、色もバラバラです。こうした条件の中から良品と不良品を判別するためには、多少のミスがあったとしても、人による選別が必要不可欠でした。
しかし現在のロボットは、センサーの精度や画像認識技術が高く、こうした難しい選別も高速で行えるようになってきています。最小限の人数でロボットの操作と細かい選別を行えるようになり、ミスを減らしつつ、生産性も上げられるようになりました。
またロボットを活用すれば、検査記録のデータ化も可能です。中小企業では、検査記録を紙で管理していることが多く、この管理と運用もコスト増加の要因になっています。
検査記録が紙で残されていると、不良品出荷によるクレームなどの問題が発生したとき、データ解析に手間がかかります。書類を探し、検証するためにアナログな手段を使わざるを得ないからです。
一方ロボットであれば、人では検査できない細かな情報も取得してデータ化してくれるので、有事の際に工数を削減できます。
課題2.危険な作業や工程が存在する
「きつい」「汚い」「危険」の頭文字をとった3Kという言葉に代表されるように、製造業の工場ではその作業環境も課題です。危険な現場で人による作業を行う場合、安全確認などの工程が発生し、生産性向上のボトルネックとなっているケースがあります。
室内温度が高かったり、高所での作業が必要とされたりする工場では、人の安全を確保するために多くのコストがかかります。高温による熱中症をさけるために頻繁に休憩をいれたり、高所の安全を確保するために特別な装備と点検が必要になったりします。
これらのコストは人の命がかかわるため、工数削減が非常に困難です。しかしロボットであれば、過酷な作業現場でも継続的に稼働でき、生産性向上に期待が持てます。
また、過酷な作業をロボットに任せられれば、人はメンテナンスなどの作業で済むようになります。これは製造現場にとって大きなメリットです。なぜなら、労働環境の過酷さは、製造業の大きな課題である「人材不足」にも深くかかわっているからです。
「製造工場は過酷」という先入観が独り歩きし、工場で働きたいと考える若者が少なくなっています。ロボットを導入して過酷な作業環境を改善できれば、新しい人材の確保にもつながる可能性があるのです。
課題3.高い技術を持つ熟練工が必要
製造業の人材で特に不足しているのが、高い技術を持った熟練工です。現場でのキャリアが長く、高品質な製品の生産に不可欠な熟練工の数が徐々に減少しています。
これは、これまで働いていた熟練工の高齢化による退職や、若手の育成不足が原因です。熟練工が長い年月をかけて磨いてきた技術は、「教えればすぐにできる」ものではありません。もしその技術をマニュアル化できても、若手が同じ水準で作業できるようになるまでには、長い時間がかかるでしょう。
しかし現在、ロボットの性能は飛躍的に向上しています。以前は単調な作業しかできなかったロボットですが、今は緻密な作業ができるようになりました。
たとえば、これまで人の手で行うのが一般的だった「バリ取り」。バリの大きさや形状は一つひとつ微妙に異なります。製品本体を傷つけず、かつ正確にバリ部分を取り除く作業はこれまで自動化されていませんでした。
しかし今では、バリ取りロボットが工場へ導入されている事例も少なくありません。熟練工が15分かかっていたバリ取りを、ロボットによる自動化で35秒まで短縮できたケースもあります。
さらに、伝統工芸を制作する「職人技」をデータ化し、ロボットに継承させる試みも行われています。もはや、ロボットにできない作業の方が少なくなってきているのです。
課題4.不可抗力的な長時間労働
ロボットで工場を自動化すると、長時間労働の課題も解決できます。人とロボットそれぞれが最も生産性の高い作業を行えるようになるからです。
人は単調な作業を長時間行うと、集中力が低下してしまうもの。集中力の低下により、人為的ミスのリスクの高まります。
ある部品メーカーでは、発注に合わせて作業者が部品を数え梱包を行っていました。しかし発注量によって作業者の負担が異なり、繁忙期は長時間労働がまねく集中力低下によってオペレーティングミスが頻発。長時間労働解決は急務でした。
そこで、部品のピッキングと梱包を自動化するロボットシステムを導入。人が行うのはロボットのオペレーティングになり、負担が減少し、生産性も向上しました。
また、作業員のキャリアが長くなるにつれ、担当業務が増えるケースがあります。責任者になると、生産業務やスケジュール管理、若手の育成などのマネジメント業務も発生してしまい、長時間労働は避けられませんでした。
しかしロボットによって生産業務が自動化されれば、責任者はほかの業務に力を注げるようになります。組織開発に注力できれば、作業自動化による生産性向上にとどまらず、工場の環境改善に取り組めるようになるのです。
課題を解決するために、原因を正確に把握しよう
これまで日本の経済を支えてきた製造業。現在は過酷な作業現場や人材の不足など多くの課題に直面しています。ロボットはこうした課題を解決するひとつの方法として、これからも注目が集まるでしょう。
しかし、ロボットの導入には大きなコストがかかります。むやみに導入して作業を自動化しても、適切に運用できなければ生産性は上がりません。
どの工程を自動化すれば効果が出るのか、原因を正確に把握した上でロボットを活用しましょう。
