産業用ロボットを利用する時の安全基準。「労働安全衛生規則」を解説

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ひとつの目標に向かって共に働いている従業員たちも、一人ひとり考え方や行動は異なります。作業手順が決まっていなければ、担当者の考え方や経験次第で手順が変わってしまいます。


熟練度の高い人にとっては安全かつ手早く済ませられる作業も、若手にとっては危険度が高く、時間のかかる作業かもしれません。しかし、作業手順やルールを事前に定めておけば、担当者による作業効率や事故リスクを均一化できます。


『労働安全衛生規則』には、産業用ロボットを利用するときのルールが定められています。今回は、産業用ロボットを利用する際に必ず理解しておかなければならない『労働安全衛生規則』について解説します。

労働安全衛生「規則」と労働安全衛生「法」はどう違う?

労働安全衛生規則と混同されやすいのが労働安全衛生法です。どちらも働く人を守るためのルールですが、制定機関や法的拘束力が異なります。


  制定機関 法定拘束力
規則 各省庁の大臣
法律 国会

労働安全衛生法に記載されているのは、「事業主は従業員に必要に応じて教育を行わなければならない」「従業員は、授業主が定めたルールを守らなければならない」といった普遍的なルールであり、産業用ロボットにかかわる具体的な規定はありません。


労働安全衛生規則は、労働安全衛生法をもとに具体化されたルールを定めており、「産業用ロボットを利用する際にどんなルールが必要か」についても規定されています。


産業用ロボットの規則は、『労働安全衛生規則 第2編「安全基準」第1章「機械による危険の防止」第9節「産業用ロボット」第150条の3〜第151条』に記載されています。これから、それぞれの条文や項目を解説します。


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【第150条の3】可動範囲内での教示等の作業を行う場合の措置

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産業用ロボットについての規則は、第150条の3から定められています。最初の項目で定めているのは、『可動範囲内での教示等の作業を行う場合の措置』です。


産業用ロボットにおける教示とは、ロボットの動作を設定する「ティーチング」を指します。ティーチングにはいくつかの方法がありますが、ロボットに近づいて設定する方法もあるため、作業者の安全を確保するためのルールは必須です。


ティーチングや方法によって異なる特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。

協働ロボットのメリットとは?流行の背景や定義などの全知識

また、産業用ロボットは不具合や誤動作を起こす可能性もあります。そのため、第150条の3では、「ロボットに接触する可能性がある作業には、危険を防止するためのマニュアルや規程を作成しなければならない」と定めています。規程などを作成しなければならない具体的な作業や状態は以下の項目です。


【可動範囲内での教示等の作業を行う場合の措置】
  1. 作業規程の作成
    (a) ロボットの操作の方法及び手順
    (b) 作業中のマニピュレータの速度
    (c) 複数の労働者で作業する場合の合図の方法
    (d) 異常時における措置
    (e) 異常時に運転を停止し、再起動させる時の措置
    (f) 不意の起動、誤操作による危険防止措置
  2. 異常時にロボットを停止させるための措置
  3. ロボットが動作中であることを表示し、誤操作を防止するための措置

ただし、産業用ロボットが動作しないように電源やエネルギー供給を完全に停止させてから作業を行う場合、1〜2の措置は例外的に必須ではなくなります。

【第150条の4】運転中の危険防止のための措置

第150条の4では、産業用ロボットの運転中に作業員がロボットと接触して危険が発生する可能性がある場合、安全柵や囲いを設けて危険を防止しなければならないことを定めています。


しかし、ティーチングや検査、修理、調整といった作業でロボットを運転する必要がある場合、安全柵や囲いで作業者とロボットを隔てる必要はありません。

平成25年12月24日付基発1224第2号通達による規則改定

平成25年の12月24日、150条の4が改定される通達が出されました。近年の技術進歩や製造業の労働力不足を考慮し、産業用ロボット普及の促進が大きな目的です。


この規則改定によって、一定の条件を満たして安全性が保たれている場合に限り、ロボットと作業員を安全柵で分ける必要がなくなりました。産業用ロボットの安全性を証明するための調査で特に重要視されるのが以下の点です。


  • 産業用ロボットのマニピュレータ等の力および運動エネルギー
  • 産業用ロボットのマニピュレータ等と周辺構造物に拘束される可能性 マニピュレータ等の形状や作業の状況
  • 突起のあるマニピュレータ等が眼などに激突するおそれがある場合
  • マニピュレータ等の一部が鋭利である場合
  • 関節のある産業用ロボットのマニピュレータ間に挟まれる可能性がある場合等

この通達は「80W規制の緩和」とも呼ばれています。産業用ロボットの出力が80W未満であればロボットと人が同じ作業域で働けるようになり、『協働ロボット』の開発が進むきっかけとなりました。


関連記事:

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参考:
産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正について

【第150条の5】検査等の場合の措置

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産業用ロボットを利用するために講じなければならない措置は、ティーチングと運転時の作業だけではありません。ロボットの「検査」を行う際の措置も必要です。


以下の「検査等の作業」に当てはまるときは、ロボットの運転を停止したり、起動スイッチに錠をかけたり、ロボットが運転中であることをわかりやすく表示するといった措置を講じなければなりません。


【検査等に当てはまる作業】
  • 検査
  • 修理
  • 調整(ティーチングに該当するものを除く)
  • 掃除もしくは給油
  • 上記作業の結果確認

しかし、産業用ロボットの運転中にこうした作業を行わなければならない状況もあるでしょう。その際は、事故を防止するために、さきほどご紹介した『可動範囲内での教示等の作業を行う場合の措置(注)』を講じていれば、「検査等の場合の措置」の規則に準ずる必要はありません。


作業規程の作成や緊急時の対応などを定めていれば、検査時にロボットを必ず停止させる必要はなくなりますが、事故リスクをできるだけ低減するために、実際の運用ではロボットを止めたほうがよいでしょう。


注:「1.作業規定の作成 (b) 作業中のマニュピレータの速度」は除く。

【第151条】点検

最後の151条では、産業用ロボットの可動範囲内でティーチングを行う前に、次の項目の点検が義務付けられています。


【点検内容】
  • 外部電線の被覆又は外装の損傷の有無
  • マニピュレータの作動の異常の有無
  • 制動装置および非常停止装置の機能

こうした項目に異常が見られる場合、すぐに補修などの対応を取らなければなりません。産業用ロボットの点検は、現場の作業員でもできる簡単な点検から、ロボットの専門家であるSIerしかできないメンテナンスなど、多くの項目があります。産業用ロボットを長期間、安全に利用するためにも、こうした点検は入念に行いましょう。


参考記事:

産業用ロボットの事故や故障を防ぐ。定期的なメンテナンスの必要性を解説

効果を最大限発揮するために規則を正確に理解する

『労働安全衛生規則』や『労働安全衛生法』といったルールは、人を守るために規定されています。産業用ロボットを安全に利用するためには、多くのルールを理解しなければなりません。


安全対策の基本となる労働安全衛生規則ですが、現場に規則を浸透させ、徹底するのは簡単ではありません。実際に、産業用ロボットによる事故件数は年々上昇しています。事故を防止し、生産性を高める産業用ロボットの効果を最大限発揮するためにも、労働安全衛生規則を正しく理解しましょう。


関連記事:

産業用ロボットの事故件数が増加中。事例と責任の所在を解説

参考:労働安全衛生規則

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