製造業が直面する2つの課題。ものづくり産業が再起するための解決策

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日本はかつて、「ものづくり大国」として世界的に高い評価を受けてきました。熟練された職人や最先端の技術を上手く取り入れる能力、繊細な作業にも粘り強く取り組む勤勉さなどが大きく関わっています。

しかし、そんな日本のものづくり産業は、以前とは異なり衰退を見せつつあります。その背景には、低コストを可能にする新興国の台頭、日本国内の労働力人口の減少をはじめとしたさまざまな課題がありました。それらの課題を解決するための方法はあるのか。今回は危機を迎えつつある日本のものづくり産業に注目し、その課題や解決策について解説します。

直面する「第4次産業革命」の壁。日本の製造業の現状

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あらためて、日本のものづくり産業がおかれている状況を見てみましょう。

経済産業省の「製造業を巡る現状と政策課題 ~Connected Industriesの深化~(※)」によれば、日本の国内総生産における製造業の割合はおよそ21%であり、サービス業(およそ30%)に次ぐ重要な産業であることがうかがえます。

もともと日本製品は、高い品質や性能から国際的な市場でも人気を博していました。しかし、1990年代初頭のバブル崩壊で状況は一転。長期間にわたって日本を襲った不景気、急激な円高によって、製造業の事業者数や従業員数は大きな減少を見せます。

それでも日本は優れた生産方式によるコストの削減、顧客のニーズをくみ取った商品開発により、不況の時代を乗り越えてきました。実際に2017年10〜12月期のGDPでも過去最高水準の551兆円を記録しており、経済状況は大きく回復しています。

「ものづくり大国」としての意地を見せ続けている日本ですが、現代はIoTやAI活用が必須となる「第4次産業革命」と呼ばれる時代であり、意識改革をしなければ生き残れない状況にあります。従来のような「ものを作れば売れる」時代ではないことを再認識するとともに、製造業をとりまく課題とその解決法を理解していくことが求められているのです。

参考:製造業を巡る現状と政策課題 ~Connected Industriesの深化~
関連記事:市場規模は2035年までに5倍に。産業用ロボット業界の成長見込み

回復期でも安心できない?製造業が抱える2つの課題

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製造業は、日本経済の根幹を支えている大きな業界のひとつであるため、製造業の衰退は、日本経済全体の衰退に直結しているとも言えます。

一見順調な回復を見せてはいるものの、まだまだ安心できないのは多くの課題が残っているためです。今まさに直面している代表的な課題を解説します。

課題1.遅れるIT活用。技術力への自負と導入コストへの懸念

総務省がまとめた「平成30年版情報通信白書」でも述べられているように、日本でのICT導入状況はアメリカやドイツといった先進諸国と比べ10%〜20%ほど低い状況です。

日本の製造業が衰退の兆しを見せている要因として、中小企業の設備投資が未だ滞っている点が考えられています。

経済産業省の「2018年版中小企業白書・小規模企業白書概要」では、中小企業の経常利益は過去最高水準を記録しているだけでなく、2005年〜2007年には著しく差が開いていた都市部と地方での業況判断にもばらつきがなくなっていることが明らかになっています。しかし、依然として大企業との生産性の格差はおよそ2倍に広がっており、この差を埋めるためにも中小企業の生産性向上は必須といえます。

今後の生産年齢人口の減少を見据えたとき、製造業を含めた市場では人材活用の制度的な工夫、ロボットやIoT、AIをはじめとする先進ツールの活用、労働生産性の向上に向けた取り組みが重要となっています。しかし経営者の中には、ツール導入の一時的な支出をためらったり、自社の売りが「技術」にあるという自負から導入に積極的でなかったりする人も少なくありません。

参考:平成30年版情報通信白書
参考: 2018年版中小企業白書・小規模企業白書概要

課題2.労働力人口の減少にともなって人材確保が困難に

製造業で特に深刻化しているのが、人材確保の課題です。経済産業省の調査(2017年)では、人材確保について「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」と回答する人は前年に比べ23%から32%に増加しています。

生産年齢人口の減少から、今後は製造業だけでなく日本の市場では限られた人材を奪い合うようになるでしょう。つまり、求職者側の立場から見れば「急激な売り手市場」です。そんな状況では、いかに求職者を好待遇できるかが、人材確保の鍵といえます。

しかし、製造業では「きつい・汚い・危険」という「3K」のイメージが今なお根強く、若い世代からの応募が見込めない可能性も。好待遇が用意できず、先入観から志望者も集まらない状況が続き、結果として業績の伸び悩みにつながって既存の従業員への待遇も改善できない悪循環に陥る企業も見られます。

参考:製造業を巡る現状と政策課題 ~Connected Industriesの深化~
関連記事:労働力人口減少やスキル不足。製造業が直面する人手不足。その根本的な原因と対策

IT利活用や働き方改革への取り組み。具体的な解決策

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先述した課題に対し、製造業はどのような行動をとるべきなのでしょうか。具体的な解決方法をご紹介します。

解決策1.スマートファクトリーの実現

近年では、IoT技術をもとに、インターネットで接続した工場内の設備やシステム、センサーを管理して生産性向上を果たす「スマートファクトリー」に注目が集まっています。

「2018年度ものづくり白書」において、人材確保として「新卒採用の強化」を重視している企業が最も多いなか、「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」や「IT・IoT・ビッグデータ・AIなどの活用による生産工程の合理化」も大きな注目を集めています。

しかし、スマートファクトリーをはじめるためには、工場の規模や業務内容に適した仕様のシステムが構築できる「デジタル人材」が必須です。現在は政府から補助金を受けられる講習会など、学びの機会が提供される仕組みも多くあるため、既存の従業員をデジタル人材として育成することを検討してもよいかもしれません。

こうしたデジタル人材の社内育成が難しい場合、SIer(エスアイアー)と呼ばれる専門家に依頼することで、スマートファクトリー化や作業自動化の手助けをしてくれます。SIerは製造工場の生産性向上について専門的な知識や経験を有しているため、IT活用に興味が湧いたときは、まずはSIerに相談してみるとよいでしょう。

参考:2018年度ものづくり白書
関連記事:スマートファクトリーとは?メリット・デメリットを事例と一緒に解説
関連記事:ロボットシステムインテグレータとは?導入プロセスや補助金を紹介

解決策2.制度面からのアプローチ。「働き方改革」に取り組む

厚生労働省が推奨する「働き方改革」は、製造業事業者にとっても無関係ではありません。「3K」をはじめとした、製造業への先入観を払拭するためにも、誰もが働きやすく、長く働けるような環境の整備が求められています。

政府からの呼びかけを受け、国内の製造業でも働き方改革に向けた取り組みを実施する企業が増加しています。たとえば、電子工学材料の受託加工を行うある企業では、仕事と家庭の両立ができるように職場環境を改善したり、雇用安定のために育児・介護休暇の取得を整備したりしています。

また、高精度小物の切削、研削加工を行う企業も、日々の残業時間をグラフによって部署内で可視化し、残業時間が多い人がいれば部署内、社員間で仕事を分担して業務量を調整する環境を作り出しています。

少子高齢化が進んでいる今、企業は市場にいる人材に「どうすれば長く働いてもらえるのか」を考えなければいけない状況にあります。「退職されても、また新しく雇えばいい」という考えを持っていては、いつまでも従業員は集まりません。現在判明している課題を確認する、従業員に対し環境改善に向けた要望を聞くといった基本から始めましょう。

参考:働きやすい公平で快適な環境をつくる−セラテックジャパン株式会社
参考:愛知の「働き方改革」取組事例−エイベックス株式会社

解決策3.産業用ロボットの導入は不足人材の補てんだけでなく生産性向上も見込める

働き手の人手不足が深刻化している今、製造業では産業用ロボットの導入が進んでいます。購入やシステム構築といった初期投資の大きさから、「検討段階で止まっている」企業もあるかもしれません。しかし、産業用ロボットの導入は、精度の高い作業を高速で繰り返し行えるため、不良率の低下や生産数増加を見込むことができ、生産性向上を実現します。

産業用ロボットにはいくつかの種類があり、種類によって得意な作業や導入方法が異なるため、自社に導入するならどの種類が良いのか検討することからはじめましょう。

関連記事:産業用ロボットとは?主な5種類や事例、他のロボットとの違いを解説

課題をひとつずつ丁寧に解決する。製造業の未来に向けてできること

時代とともに、ニーズや環境、技術は常に変化を続けています。過去の成功にとらわれるのではなく、「これからの時代に求められているもの」を考え、行動していく姿勢が重要です。

製造業が直面している課題を見つめ直し、解決に向けて動きはじめなければ、今後も生き残り続けるのは難しいかもしれません。とはいえ、企業が抱える課題はひとつではないため、それぞれに優先順位をつけて取り組むとよいでしょう。課題をひとつずつ丁寧に解決していくことが、企業の存続と成長を手助けしてくれるはずです。

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