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「デジタルツイン」とは?製造業も仮想空間を活用する

「デジタルツイン」とは?製造業も仮想空間を活用する

デジタルツインは現実世界のデータを用いて、デジタル空間に現実と双子のようなコピー環境を再現する技術です。現時点では完全な実用化に至っていませんが、IoTやAIなどの次世代情報技術の活用が急速に進む中、注目を集めています。今回は、デジタルツインの定義や活用するメリット、事例について解説します。

IoTやAIなどの次世代情報技術は、いずれも現在の社会システムをより高度な次元へと引き上げるための手段です。産業界では、新たな技術を活用する産業改革「インダストリー4.0」として、製造業に関わるビジネスモデルを変革する動きが活発化しています。こうした潮流の中で、現在急速に注目を集めているのが「デジタルツイン」という技術概念です。

今回は、デジタルツインの定義や、製造業に活用する場合のメリット、実際の活用事例(想定される活用)について、解説します。

現実とデジタルをつなぐデジタルツインとは?

デジタルツインとは、現実世界のデータを用いて、デジタル空間に現実と双子(ツイン)にあたるコピー環境を再現する技術です。つまり、「現実と合わせ鏡のような仮想世界をコンピュータ内に作り出す」という発想です。

デジタルツインを実現する要素には、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、AR/VR(拡張/仮想現実)、5G規格通信などの技術トレンドが複合的に含まれます。近年これらのトレンドは社会へ十分に浸透し、すでに具体的な活用方法が検討・実践されている段階にあるため、デジタルツインは急速に注目を集めています。事実として、アメリカの大手リサーチ企業・ガートナー社が毎年発表する「戦略的テクノロジのトレンドのトップ10」に、デジタルツインが2018年と2019年の2年連続ランクインしています。

参考:「ガートナー、2018年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10を発表」ガートナージャパン株式会社
参考:「ガートナー、2019年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10を発表」ガートナージャパン株式会社

次に、デジタルツインの概念について具体的に解説します。

フィジカル/サイバー間のデータループ構造

デジタルツインを説明する上で欠かせないのが、「CPS(Cyber Physical System)」という考え方です。CPSは、現実(フィジカル)とIT(サイバー)が一体となって、より高度な社会システムの構築を実現します。ドイツ主導のデジタル化産業革新「インダストリー4.0」においても、CPSは最重要事項に挙げられるほどです。

現実を起点とした場合、CPSは以下のようなプロセスでデータがループします。

  1. 対象となる現実世界の要素からデータを収集する
  2. データをデジタル空間と同期させる
  3. データを元に解析・シミュレーションを実施する
  4. 得られた結果を現実世界にフィードバックする

上記プロセスは、デジタルツインの考え方とほとんど同じです。デジタルツインでは、デジタル空間と同期されたデータが、現実世界と完全に同じ動作や振る舞いを再現する、というアプローチで活用されます。そしてフィードバックから得られる情報や知見が、新たな価値の創造や未来予測をもたらすのです。

デジタルツインが製造業にもたらすメリット

デジタルツインは、現実世界で観測可能なあらゆる物体や事象に活用できると言われていますが、目下は製造業における生産プロセスが開拓領域となる見通しです。それでは、デジタルツインが製造業にもたらすメリットについて、生産プロセスにおける製品開発・保守・顧客サービスの3点に分けて解説します。

製品開発におけるメリット

まず設計の段階では、製品の試作をデジタル上で行うことで、物理的なコストを削減できます。加えて、製品の市場における使用方法や人気情報を取得することで、マーケティングや品質改善に必要なコストの削減にもつながります。さらに、現実世界と同じ環境で試作のシミュレーションを実施すれば、製造する前段階から出荷後の故障やリコールを極力回避できる製品設計が可能です。

生産現場においては、作業員へセンサーやウェアラブルデバイスを取り付けることで、作業工程ごとの稼働率や人員への負荷がデータ変換されます。活動状況が可視化されれば、ライン編成効率やスケジューリングの最適化が可能となり、結果的には生産リードタイムを大幅に短縮できます。

また、デジタルツインは、マスカスタマイゼーションという考え方にも応用可能です。

参考記事:マスカスタマイゼーションで多品種少量生産を効率化

保守におけるメリット

製造ライン稼働後や製品出荷後の保守では、不具合発生時の原因究明や影響範囲の特定が容易になるメリットがあります。生産状況や使用状況、各種トレーサビリティ情報を一連にモニタリングすることで、不良の兆候を素早く検知、もしくは発生した不良の早期発見が可能です。また、プロセスに関わる人員がユビキタス(時間・場所を問わず)に監視でき、物理的な立ち会いも不要になります。

顧客サービスにおけるメリット

顧客サービス向上の観点でもメリットがあります。例えば、製品に取り付けたセンサーなどから顧客の利用状況を把握し、自動的に摩耗の把握や寿命予測を行うことで、適切なタイミングで部品交換や修理などのアフターサービスが行えます。

アフターサービスに留まらず、顧客のニーズを利用状況から分析することで、顧客それぞれに最適な製品や設計仕様の提案が可能となるのです。

デジタルツインの導入事例

デジタルツインは、現時点では完全な実用化に至っていませんが、部分的に導入した事例や、完全実現化に向けたプロジェクトは世界各地で実施されています。今回は、代表的な3つの事例についてご紹介します。

【GE(ゼネラル・エレクトリック)社】航空機エンジンのリアルタイムモニタリング

航空機エンジンの約6割を供給する世界最大の総合電機メーカー・GE社は、自社のエンジンをデジタルツインでリアルタイムにモニタリングしています。飛行中であってもモニタリングを行うため、トラブルの発生箇所やメンテナンスを必要とする箇所が、目的地に着陸する前に検知可能となっています。これにより、交換が必要な部品が発生した場合、あらかじめ部品を手配することで、遅滞無く整備が完了できます。つまり、膨大なコストを伴う遅延への対応リスクを回避できるのです。

また、燃料の特性や気温、気圧、砂埃の量といった詳細なデータを把握することで最適な洗浄頻度を分析し、洗浄コストをカットすることで、保守費用を削減することにも成功しています。

参考:「デジタル・ツイン:データを分析して将来を予測する」GE Reports Japan

【シーメンス社】製品ライフサイクルの全デジタル化

インダストリー4.0を牽引するドイツの先進企業グループ・シーメンスは、製品ライフサイクルの全デジタル化を目指す「デジタルエンタープライズ」を提唱し、バイエルン州の自社工場で採用・実践しています。同時に、製品・製造プロセス・パフォーマンスの3点でデジタルツインを構築する考えを示しており、これを一元的に実現するIoTプラットフォーム「MindSphere(マインドスフィア)」なども用意し、展開しています。

シーメンスによれば、デジタル技術を本格採用した2016年以降、生産性改善のペースは大きく上がり、従来比で1.3~1.4倍になったとのことです。

参考:「デジタル・ツイン 」 シーメンス

【シンガポール】国土全体を丸ごと3Dモデル化

デジタルツインの活用は製造業にとどまらず、国家プロジェクトにまで発展しています。

シンガポールでは、約720平方kmに及ぶ国土全体を3D空間に再現するプロジェクト「バーチャル・シンガポール」が進行しています。プロジェクトの目的は、交通・インフラ・エネルギー・防災など多岐にわたる分野の情報をバーチャル都市として統合し、新たなビジネス・サービスの創造や最適な行政施策の実現です。

バーチャル都市の活用方法は、例えば次のような内容が想定されています。

  • 交通情報を組み合わせ、自動運転技術を核としたMaaS(Mobility as a Service)の基盤を整備
  • 災害発生時はインフラの被害状況や通行止め情報などを提供するなど、防災関連での活用
  • 3D都市内をVRで擬似観光できるサービスの展開
  • 日照時間のシミュレーションを行うことで、太陽光発電や緑地設置の有効性を判断

他にも豊富な活用想定が存在し、日本の国土交通省もシンガポールを参考事例として、2019年5月30日に「国土交通データプラットフォーム(仮称)」の整備計画を策定したことを発表しました。

参考:「2018年に完成!シンガポールが国土を丸ごと3Dモデル化」日経 xTECH
参考:「報道発表資料:産学官連携によるイノベーションの創出を目指します ~「国土交通データプラットフォーム(仮称)整備計画」を策定しました~」国土交通省

デジタルツインによって高度化される社会は目前

デジタルツインは現時点で100%の実用化はされていません。しかし、ガートナーが発表する「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018年」によれば、デジタルツインが主流技術として採用されるまでに要する年数は5~10年で、現時点では「過度な期待」が込められた黎明期とのことです。すなわち、現実とデジタルが相互補完して、製造業を含む社会システムが高度に最適化される時代は、10年以内に訪れるのです。

参考:「ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018年」を発表 – 人とマシンの境界を曖昧にする5つの先進テクノロジ・トレンドが明らかに」ガートナージャパン株式会社

各企業がデジタルツインを未来の技術ではなく、いずれ常識となるビジネス基盤だと意識し、常に技術トレンドにアンテナを張ることが望ましいでしょう。デジタルツインは産業用ロボットとも相性がよく、生産プロセスの最適化につながります。デジタルツインが実現する前に、まずは産業用ロボットの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

参考記事:産業用ロボットとは?主な5種類や事例、他のロボットとの違いを解説

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関連記事:IoTの基礎知識と製造業での活用メリット・課題を徹底解説

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